特別研究一覧
List of special research
令和4年度
Adolescents and Young Adults 世代に対する子宮頸がん予防行動勧奨プログラムの開発 : 社会実装研究
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子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルスワクチンの接種と定期的な子宮頸がん検診により、罹患率も死亡率も大幅に減らすことができます。しかし、日本のAdolescents and Young Adults 世代(18 歳から30 歳)の7 割以上は適切な予防行動を実行できていません。私は、同世代の子宮頸がん予防行動の実行率を上げることを目的に、インタビューや質問紙を用いて、同世代の子宮頸がんに対する意識や、社会的背景、経験などと行動意図との関係を研究しています。集団特性にあわせた情報提供を社会実装し、その効果を科学的に検証します。
後期高齢者における血圧と総死亡との関連
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静岡県国民健康保険・後期高齢者医療制度に加入している高齢者356,044 人のデータを用いて、特定健診時の血圧と総死亡の関連を検討した。対象者の年齢は74.4±6.9 歳、平均収縮期血圧(SBP)は132±16mmHg、追跡期間は5.2±2.1 年であった。65-75 歳まででは血圧と総死亡とは正相関したが、75 歳以上ではSBP120mmHg 未満で総死亡率が高まりJ 型の関連を認めた。その関係は、併存疾患や降圧剤処方の有無、介護度の影響を受けなかった。
一般集団における急性腎障害の発症率、患者特性、発症リスク因子
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急性腎障害(AKI)は種々の疾患や薬剤使用に伴って生じる急性の腎機能低下で、発症すると腎予後、生命予後を著しく損ないます。そのAKI に関して静岡国保データベース(SKDB)を用いたコホート研究を行いました。健診結果や病名、処方薬を抽出し変数として用い、AKIの発症率推定や発症リスク因子の同定を試みました。本研究の結果が今後の研究や予防介入に資することを期待しています。
下肢切断術後の患者における死亡に対する予後因子の探索
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一般の集団から下肢切断を受けた患者526 名を対象に、長期生存率と予後因子を同定しました。その結果、年齢、近位切断、腎臓病、脳血管障害、認知症、うっ血性心不全が長期予後因子として特定されました。予後因子の中の、年齢、腎不全、うっ血性心不全の組み合わせにより予後分類を構成しました。本研究の結果は、予後因子による長期予後のイメージを医療従事者や患者と共有し、臨床現場での効果的な意思決定を行うことに役立ちます。
大腿骨骨折を起こした患者における予後予測スコアリングシステムの開発及び検証
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高齢者に多い大腿骨骨折は、寝たきりや死亡につながる重要な疾患の一つです。本研究は、静岡国保連データベース(SKDB)を使用して、大腿骨骨折後の生存率に影響を与える因子の同定を行い、それらを用いて大腿骨骨折の予後を予測するスコアシステムの構築と検証を行ったものです。このスコアは、「静岡大腿骨骨折予後予測スコア(SHiPS)」と名付けました。SHiPS は、骨折時にすばやく正確な予後リスクを知ることができるため、適切な治療やケアの戦略に役立てることができると考えています。それにより、要介護や死亡となる大腿骨骨折患者数を減らし、県民の健康長寿に貢献していきたいです。
SJS/TEN の発症リスク因子および発症を誘起する薬剤
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静岡県市町国保データベース(SKDB)から作成した仮想的なコホート研究にて、スティーブンス・ジョンソン症候群および中毒性表皮壊死症(SJS/TEN)の発症リスク因子、発症を誘起する薬剤を明らかにすることを目的としました。多変量解析により、SJS/TEN の発症リスク因子は、高齢と2 型糖尿病、末梢血管疾患、全身性自己免疫疾患の既往であることが確認されました。さらに、既報の薬剤に加えて、免疫チェックポイント阻害剤、インスリン、2 型糖尿病治療薬の投与は、SJS/TEN の発症を誘起する可能性があることが確認されました。
後期高齢者における経カテーテル的大動脈弁置換術後の予後予測におけるHospital Frailty Risk Score の有用性
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高齢者の大動脈弁狭窄症に対する低侵襲治療である経カテーテル的大動脈弁置換術の予後を予測する因子についてSKDB を用いて検討しました。レセプトデータに基づいたフレイル指標であるHospitalFrailty Risk Score が性別や術前の要介護度と共に予後因子となることを明らかにしました。どの程度の予後が期待できるかをあらかじめ知った上で治療方針を話し合うことが可能となると期待されます。
ロイコトリエン受容体拮抗薬は気管支喘息またはアレルギー性鼻炎 を有する高齢者集団における入院を伴うてんかん性発作を抑制する
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高齢化に伴い、高齢者のてんかん性発作の予防が必要になっています。ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)は、気管支喘息やアレルギー性鼻炎の治療薬として広く使用されている薬ですが、先行研究によりLTRA が抗てんかん作用を有する可能性が示唆されています。しかし、大規模な集団ベースの研究報告が少ないため、静岡県市町国保データベースを用いてLTRA の抗てんかん作用を確認しました。その結果、気管支喘息やアレルギー性鼻炎を有する高齢者の集団で、LTRAの投与により、入院を伴う重症なてんかん性発作の発生率が低下することが確認されました。
オレキシン受容体拮抗薬による大腿骨骨折への影響
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不眠症は特に高齢者において有病率が高く、しばしば問題となっており睡眠導入剤が良く使われております。しかし、睡眠導入剤にはふらついて転倒し骨折を起こすなどのリスクがあり問題となっております。私は新しい睡眠導入剤であるオレキシン受容体拮抗薬が転倒し骨折のリスクを増やすかどうか検討を行っております。
慢性硬膜下血腫患者における術後トラネキサム酸投与による再発予防効果の確認
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本研究では、静岡国保データベースを用いて、トラネキサム酸の投与が慢性硬膜下血腫手術後の再発を予防するか確認しました。傾向スコアマッチングを用いてトラネキサム酸投与群と非投与群を比較した結果、再手術の頻度はそれぞれ、6.3%、14.8%と、トラネキサム酸投与群において、再手術のリスク低下(リスク比0.43)をみとめました。また、トラネキサム酸投与により、血栓症や死亡の増加は見られず、慢性硬膜下血腫手術後のトラネキサム酸投与の有効性と安全性が確認されました。
食道閉鎖の極・超低出生体重児における短期および神経学的予後の検討
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食道閉鎖は、生まれつき食道の連続性に問題があり、出生直後に手術が必要になる疾患です。出生体重1500g 未満の極・超低出生体重が食道閉鎖の生命予後のリスク因子とされてきましたが、周産期医学の臨床研究を促進することを目的としたデータベースであるNRNJ のデータを用いて、極・超低出生体重の中でも出生体重が小さいほど生命予後が悪いことを明らかにしました。また、生存例でも約3 分の1 の症例で3 歳時に神経発達障害があり、長期的なサポートが必要なことが示唆されました。
スタチンの服用が死亡抑制に対して有用である部分集団の同定
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本研究は、日本の高齢者集団にて、一次予防を目的としたスタチン製剤の服用が、全死亡のリスク低下に関連するかを検討しました。さらに、スタチンの服用が有用である部分集団の同定を行いました。結果として、高齢者におけるスタチンの死亡抑制効果を示しました。また、特定の部分集団ではスタチン服用の治療必要数が全集団に比べ少ないことから、医師はこれらの部分集団に対してスタチン処方を優先的に検討できることがわかりました。
合併症をもつ脳性麻痺患者の死亡におけるリスク因子の探索
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成人の脳性麻痺患者に対する死亡率予測のための合併症評価指標としてWhitney Comorbidity Index(WCI)が開発されたが、このWCIの本邦での適応可能性やその予測性能は未検証だった。静岡県市町国保データベースを用いて評価し、本邦の脳性麻痺患者の死亡率の予測にもWCI は適応可能で予測性能が高かった。さらに誤嚥性肺炎と褥瘡を組み合わせることで予測性能がさらに向上した。成人脳性麻痺患者に対する合併症評価では、WCI に加えて誤嚥性肺炎や褥瘡も考慮することが必要である。
胆石症のリスク因子解析
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消化器外科医です。ビックデータ解析による消化器疾患の研究に力を注いでいます。最近の研究では、胆石症の発症に影響を与える併存症や生活習慣などの要因について、大規模なコホート研究を行い、ピロリ菌感染など新たなリスク因子を発見することができました。胆石症をはじめとして、消化器疾患は生活の質を妨げる大きな要素となります。消化器疾患の予防の一助になるよう研究を継続しています。
ヒドロクロロチアジド(HCT)による降圧療法と皮膚がん(SC)発症に関する研究
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HCT は日本においても頻用される高血圧治療薬であるが、海外ではSC 発症の危険性が指摘されている。我々は、静岡県国保データベースから60 歳以上の高血圧患者を対象とし、傾向スコアマッチ法によって検討した。その結果、日本人でもHCT 使用者では非使用者に比してSC 発生率が有意に高いことが判明した。今後高齢化が急速に進行するアジアにおいてHCT 使用によるSC 発症の増加が懸念される。