特別研究一覧

List of special research

令和6年度

アルコール使用障害患者の実態把握

  • アルコール使用障害とは、お酒を繰り返し多量に摂取した結果、お酒がなくてはいられなくなり、自分の意思では飲酒のコントロールができなくなる病気です。回復が難しい病気であるため、予防や支援が重要です。そのためには、まず患者さんの実態について明らかにすることが必要です。この研究では静岡国保データベース用いてアルコール使用障害患者さんの実態について調べました。その結果、アルコール使用障害の患者さんは年々増加していることや、アルコール使用障害の患者さんはそうでない人に比べ死亡率が2~3 倍高いことが分かりました。今後、アルコール使用障害の治療が受けやすくなるような体制を整えることや、支援を充実させることが必要です。

訪問診療患者における入院リスク因子の検討

  • 本研究では、静岡県市町国民健康保険データベースを用い、75歳以上の訪問診療患者を対象に、死亡リスクとの競合を考慮した解析を実施し、入院リスク因子を検討した。結果、男性や悪性新生物、COPD、尿道カテーテル留置がリスクを高める一方、入院歴や高い要介護度、認知症、大腿骨頸部骨折では入院が抑制される傾向を示した。これらの知見は、高齢者が在宅療養を継続するうえでの重要な指針となる。

A型急性⼤動脈解離の⼸部置換術と上⾏置換術の治療成績の⽐較

  • 致死的疾患であるA 型急性⼤動脈解離に対する治療法として、上⾏置換術か⼸部置換術が選択されます。静岡国保データベースを⽤いて、この⼆つの術後成績を⽐較しました。両術式間で術後死亡に有意差は⾒られませんでしたが、上⾏置換術と⽐較して⼸部置換術で術後の再開胸⽌⾎術と⻑期の集中治療管理を要した症例が有意に多いという結果でした。⼸部置換術を選択する際は、その適応を慎重に判断する必要があると考えられました。

小児喘息患者における喘息発作とPM2.5濃度・気象条件・花粉との関連-静岡県国保データベース研究-

  • 私の研究は、気象条件や大気汚染物質とアレルギー疾患の増悪が関連しているのではないかという臨床経験から着想しました。近年日本における大気汚染は改善傾向ですが、PM2.5濃度はWHOの基準を満たしておらず、またスギ花粉に感作される小児は近年増加傾向です。静岡県市町国保データベースをオープンデータと紐づけることで、小児喘息発作とPM2.5濃度の関連を気象条件やその他の大気汚染物質濃度、花粉量を考慮し研究しました。PM2.5濃度上昇と小児喘息発作は関連があり、また小児喘息発作においてPM2.5濃度と春花粉による相乗効果の可能性が示唆されました。

定期的な歯科受診に関連する因子の探索

  • 静岡県内の40~59歳男女のインターネットモニター 4,000人を用いた断面調査を実施し、定期的な歯科受診行動に関連する因子を探索 し 、歯科受診率向上のための施策検討を行った。 歯科受診やセルフケアが糖尿病・循環器疾患・認知症などの予防や時間・費用の節約につながることを伝えることが歯科受診を促す可能性があることが示唆された。また、行政・歯科医療機関など提供側の環境整備や、関係機関の連携の重要性などについて確認することができた。

卵巣癌の治療進歩が医療費に与える影響に関する調査

  • 近年の癌治療は目覚ましく進歩しているが、新規治療薬は従来の薬剤と比較して非常に高価である。本研究では、静岡国保データベースを用いて、卵巣癌に対する新規治療薬が医療費の増加に寄与しているかを検討した。その結果、新規治療薬であるベバシズマブの使用量の経年的な増加とともに総医療費も増加していることが明らかとなった。今後は、医療費の増加に対応するため、新規がん治療薬の適正使用について議論が進む可能性がある。

SKDBを用いたこども医療費助成政策が Ambulatory care-sensitive conditions(ACSCs)入院に与える影響に関する研究

  • 高校生への医療費助成拡大の効果を調査した研究です。静岡県内市町の助成拡大時期の違いを利用し、拡大前後の受診状況変化を分析しました。結果、医療費助成を高校まで拡大した地域では拡大していない地域に比べ外来受診数が有意に増加しました。特に医科診療の増加が顕著で、歯科診療も短期的には増加しました。適切な外来診療があれば予防できる疾患による入院数(ACSCs 入院数)には目立った変化はありませんでした。

橈骨遠位端骨折後の60歳以上の女性における大腿骨近位部骨折発症のリスク因子の同定:静岡国保データベース研究

  • 高齢者の骨折は骨粗鬆症が原因で生じることが多く、繰り返すことで生活の制限が増えます。特に手首(橈骨遠位端)や足の付け根(大腿骨近位部)は骨折しやすく、手首の骨折は比較的若年でも起こりやすい一方、足の付け根の骨折は死亡率を上昇させるとされています。手首の骨折後に足の付け根を骨折した人の特性を研究することで、骨粗鬆症治療が特に必要な人を明らかにすることが重要です。静岡県市町国民健康保険データベースを用いてこの研究を行っています。

帯状疱疹患者における抗ウイルス薬使用による薬剤性脳症リスクの比較:静岡国保データベース研究

  • 帯状疱疹の治療に使われる抗ウイルス薬と薬剤性脳症の関連を調査しました。その結果、アシクロビルとバラシクロビルは、ファムシクロビルに比べて意識障害や幻覚などの発症リスクが高いことが明らかになりました。特に腎機能が低下している人で起こりやすいため、腎臓の働きに応じた適切な投与量の調整が、より適切で効果的な治療につながると考えられます。また、水痘・帯状疱疹のワクチン接種を行うことで 、帯状疱疹の発症を予防することも重要です 。
    ※治療薬の選択は、帯状疱疹の発症部位なども含めて、総合的に判断されます。

⼈⼯内⽿の⾳源定位検査を遠隔で⾏うシステムの実現に向けた研究

  • ⼈⼯内⽿装⽤者の精密なデータを簡便に収集するための⼿段として、仮想⾳響空間に着⽬した。健聴者に対し⼈⼯内⽿シミュレーション⾳を⽤いて、仮想⾳源定位検査が可能か検証した。結果、⼈⼯内⽿装⽤者に対する適⽤が⽰唆された。今後は⼈⼯内⽿装⽤者に対する研究を予定しているが、ここで有⽤性が確⽴されると、新たな調整法より語⾳聴取が改善することや、療育における重要な知⾒を得ること等が期待できる。

脂質異常症患者における医療機関受診の頻度が脳血管イベント、心イベント及び死亡率に与える影響 -静岡国保データベースを用いたコホート研究-

  • 血中の中性脂肪や悪玉コレステロールが高いことで定義される「脂質異常症」「高コレステロール血症」は、心筋梗塞や脳梗塞などの重要な危険因子と言われ、リスクに応じた生活習慣の見直しやお薬の服用が望まれます。しかしながら、短い間隔の医療機関の受診によって心筋梗塞や脳梗塞がより防げるのかどうかは明らかとなっていませんでした。今回、静岡国保データベースを用いて、薬剤処方等のために約1ヶ月に1回受診する脂質異常症患者群と2-3ヶ月に1回受診する群で心筋梗塞や脳梗塞の発生率に差があるかを比較しました。結果として両群に有意な差は確認できませんでした。受診頻度には様々な要因が関連しますが、患者負担軽減や医療提供体制の再考につながる研究成果であり、この場を借りてお礼を申し上げます。

大腸癌発症における高血圧の影響についての検討

  • 大腸癌と高血圧には運動不足 ・ 糖尿病 ・喫煙 など共通の因子が発症に関与することが知られています。 本研究では、静岡県市町国保データベースを用い、 傾向スコアマッチングという統計手法を駆使して、これら既知因子の影響を 除いてもなお大腸癌と高血圧の間に関連があるかを調べました。 その結果 、正常血圧群と比較して高血圧群は大腸癌を 1.15 倍発症しやすいという結果が得られました 。高血圧と大腸癌の予防に役立つ成果と思われます 。

転移性骨腫瘍に対する緩和的放射線治療に関する記述疫学研究

  • がんの⾻転移に対する治療のひとつに緩和的放射線治療があります。この研究では静岡県市町国保データベースを⽤いて、⾻転移があり薬物治療が開始された患者さんに、どの程度の割合で放射線治療が⾏われているかを調査しました。研究の結果、静岡県内の地域(⼆次医療圏)毎に実施割合を⽐較しても⼤きな差はないものの、病院毎に⽐較すると⼤きな差があることがわかりました。この研究では診療の詳細までは分かりませんが、がん診療の均てん化のための重要な知⾒が得られたと考えられます。

スタチン処方による動脈硬化性疾患予防効果の個別化予測 : ハイベネフィットアプローチとハイリスクアプローチの比較

  • スタチンは動脈硬化性疾患の予防に用いられる薬ですが,その効果には個人差があると考えられます。本研究では、静岡県市町国保データベースと機械学習を用いることで、この個人差を推定しました。その結果、発症リスクが高い人が 必ずしもスタチンの予防効果が高くなるわけではないことが明らかとなりました。また、予防効果が高い人々を集中的に治療することで、スタチンの予防効果を高めることができる可能性が示唆されました。