特別研究一覧
List of special research
令和5年度
高機能発達障害の子をもつ母親が、子の就労上のつまづきをきっかけに、行政支援につながるまでのプロセス
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高機能発達障害者の母親が、子に深刻な二次障害(精神疾患等)が起きた後、速やかに当人と行政支援につながるために重要なことは、協働的伴走者として信頼できる民間の相談者による支援であることがわかりました。協働的伴走者として信頼されるには、相談支援の基本姿勢として母親に寄り添い伴走するだけでなく、母親と共に粘り強く問題解決に向けて協働することが重要です。この基本姿勢を理解した相談者を増やし、母親が容易に相談者とつながれるようにすることが課題です。
大動脈解離発症機転と気象条件に関する疫学研究
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私の研究は、心臓から出ている太い血管が裂けてしまう病気である「大動脈解離」という病気の発症に関わっている気象因子について調べた研究です。気象因子には、気温や気圧、湿度、風速など様々なものがありますが、私の研究では、気温が影響している可能性があることがわかりました。大動脈解離は、命に関わるとても怖い病気です。治療もとても大変で苦しいものですので、予防につなげるためにどんな人やどんな状況で起こりやすいかということも調べました。その結果、たばこを吸ったことがある男性、高血圧症を患っている男性、高血圧症患っている65歳から75歳の高齢者は、気温が低い日が数日間続いた時には、大動脈解離を起こしやすくなる可能性が示されました。私の研究結果が、一人でも大動脈解離で苦しむ人を減らすことにつながることを願っています。
化学産業界の国際的な化学物質管理自主活動実践企業の取り組みに関する情報開示の実態-日本化学工業協会におけるレスポンシブル・ケア活動-
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職域の化学物質による労働災害予防として、各業界の自律管理型規制へ法改正が進められています。化学物質の危険性・有害性は多様なため、管理状況の情報開示は重要です。自主管理をレスポンシブル・ケア活動として先駆的に実践してきた日本化学工業協会企業に対し、各企業の統合報告書とCSR関連報告書の発行状況、各報告書内のこの活動の記述の有無で情報開示状況を示しました。そして他業界への適応可能性を検討しました。
CKD重症度分類 G1 から G3b の患者における健診項目による維持透析導入予測スコアリングシステムの開発と検証
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透析患者数の増加に対応するため、静岡県の健康診査データから腎機能障害初期(G1~G3b)の透析リスクを予測する新スコアリングシステムを開発しました。この容易に取得可能な10項目から算出されるシステムは、透析が必要になる人を早期に識別します。本研究は、腎機能維持と進行遅延に向けた早期介入の具体的な可能性を示し、高リスク群の特定による透析開始の延期や予防を通じて患者の生活の質向上に貢献します。
地域在住高齢者におけるPhase Angleと骨との関連:しずおか研究
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本学のコホート研究であるしずおか研究のデータを用いて、体組成計に乗ることで簡便に測定可能なPhase Angle(PhA)という指標が、骨密度やその関連する骨指標の低下した者の骨粗鬆症検診の受診勧奨に役立つ指標となるか調査を行いました。その結果、骨密度とその関連する骨指標がPhAと関連を示し、女性や身体活動のある者では、その関連が強まりました。65歳以上の女性において、骨密度やその関連する骨指標の低下を予測するPhAのカットオフ値を設定することで、65歳以上の女性に対して、骨粗鬆症検診の受診勧奨を行う際の根拠として活用できる可能性が示されました。
静岡県における結節性硬化症の疫学と課題-Patient Journey Mappingを用いた探索的検討-
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静岡県市町国民健康保険データベースを基に、結節性硬化症の有病割合と疫学的特徴を明らかにした。また、Patient Journey Mappingを用いた分析により、特に成人における診断までの期間の長さや、診断後の継続的な治療・検査による患者の疾病負荷が課題として特定された。これらの課題に対する解決策として、医療提供者に対する十分な情報提供、他院・他科連携の推進、遺伝カウンセリングの有効活用が挙げられた。本研究の成果が、結節性硬化症を含む希少疾病患者への支援および対策を講じる上で有用な情報となることが期待される。
産科医師の地域的偏在と妊娠継続性に関する地域相関研究
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保険料も税金も収めているし、窓口の支払いも増えたのに、病院で待たされるのは昔から変わらない。そもそも受診するのに不便になったような気がします。国は、2000年以降で医師を10万人以上も増やしたのに、医師や医療医機関はどこに行ったのか。私たちは公平に医療を受けられているのか。少子化と人口減少が進む私たちの社会で、安全に出産することを例にして、政府が公開しているデータを基本的な分析方法を使って調べてみると意外な事実が見えてきました。
新型コロナウイルスワクチン接種行動に関する探索:静岡市が保有するデータの利活用
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静岡市では、住民に対して新型コロナウイルスワクチン接種を実施 してきましたが、接種時に蓄積されたデータが有効に利活用されているとはいえない状況でした。そこで、静岡市が保有するデータを適正かつ安全な方法で大学に提供いただき、ワクチン接種時期や回数を感染状況とともに示しました。また、住民がどの接種会場を選択したか、予約キャンセルをどのような経路から行ったかを年齢別に明らかにしました 。結果を静岡市担当部局と共有し、ワクチン接種業務改善を図るための提言を行いました。
Clostridioides difficile感染症の発症リスクの探索に関するデータベース内ネステッド・ケース・コントロール研究
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静岡国保データベースの中からClostridioides difficile 感染症の発症者(症例群)を抽出し,年齢・性別・発症日でマッチングさせた対照群を作成した。症例群として抽出されたのは4,917 例,対照群は19,668 例であった。症例群と対照群において過去1年以内に使用した抗菌薬がなかったのがそれぞれ844例と12,725 例,1種類が1,318 例,4,507 例,2 種類が1,281 例,1,704例,3種類が835例,555例,4種類が408例,135例,5種類が164例,27例であった。条件付きロジスティック回帰分析では抗菌薬使用数が多くなるほどオッズ比が大きく,統計学的に有意にCDI発症に関連していた。
急性期病院の入院患者における転倒予測スコアリングシステムの開発とその妥当性評価:単施設後ろ向きコホート研究
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病院で患者さんが転倒すると、怪我をするだけでなく、他の健康問題が 生じたり、入院期間が延びたり、治療費が高くなることがあります。この問題に対応するため、私たちの研究では、病院で患者さんが転倒するリスクを予測する方法を開発しました。この方法は、患者さんの年齢や身体の状態などの情報を使って、入院中に転びやすい人を見つけ出します。この情報を活用して、転倒のリスクが高い患者さんに対して事前に対策を講じることができます。そうすることで、患者さんが病院でより安全に過ごせるようになり、入院期間の延長や治療費の増加を防ぐことが可能になります。
静岡県市町別生活習慣等のモニタリングにおける肥満に関する要因の探索
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肥満は多くの健康問題を引き起こす主要なリスク要因です。静岡県民を対象とした調査において、速く食事をする習慣は肥満と関連していることが確認されました。この研究結果は、ゆっくりと食事をすることが肥満を予防し、改善する方法である可能性を示しています。食べ方を変えることは、健康的な体重を維持するための簡単で効果的な方法の一つであり、健康を向上させることができるという重要なメッセージを伝えています。
重症下肢虚血患者における保存的治療に比した血行再建術の有用性評価
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末梢動脈疾患は動脈硬化により下肢の動脈が狭く細くなる病気で、特に糖尿病を持つ患者さんや透析患者さんでは足の潰瘍や壊疽の原因となることがあります。足の潰瘍や壊疽が起こると、足の痛みや傷のために歩けなくなり、ひどく悪化すれば下肢の切断が必要になる事もあります。治療法には、血液の流れを改善する目的でバイパス術やカテーテル治療などの血行再建術が適しているとされています。本研究は、末梢動脈疾患による潰瘍や壊疽を持つ患者さんに対する血行再建術が保存的治療を比較し、どれだけ生命予後や足の予後が改善するのかを評価した研究です。
スタチンとフィブラートの相互作用による有害事象の発現
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脂質異常症の治療薬として用いられる代表的な薬剤に、スタチン系の薬剤、フィブラート系の薬剤があります。これらは血中のコレステロールや中性脂肪の値を下げ、脳卒中や心筋梗塞を予防する効果があるとされるために多く使用されており、同時に服用することもあります。私たちの研究では、スタチンとフィブラートの服用の順序や切り替えで肝臓や筋肉などの副作用が出やすくなるかについて検討しました。検討の結果、フォブラートを服用中の方が追加でスタチンを追加する場合、フィブラートだけを飲み続ける場合と比較して腎障害、肝障害での入院が増えることが観察されました。また、フィブラートからスタチンに切り替える場合と、スタチンからフィブラートに切り替える場合でも、切り替えない場合に比べて肝障害が増えることがわかりました。このことから、スタチンを追加したり、切り替える場合には肝臓の検査を行うなどの注意が必要になると考えられます。
妊娠高血圧症候群の発症リスク因子探索-静岡国保データベースを用いた後方視的コホート研究-
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過去起点コホート研究によってShizuoka Kokuho DataBase(SKDB) を分析することで、妊娠高血圧症候群のリスク因子同定を行いました。その結果、年齢、居住地域、併存疾患として子宮内膜症、高血圧、ピロリ菌感染がリスク因子であることが示唆されました。このリスク因子に基づいてハイリスク妊婦を抽出することで、HDP 発症前からの慎重な妊娠管理が可能となり、母児の周産期予後改善に寄与する可能性があります。
高齢者の自覚的咀嚼状態と要介護認定、総死亡との関連解析
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本研究は、静岡国保データベースを用い、特定健診を受診した65~ 90 歳を対象に、健診で用いられる「食事をかんで食べる時の状態はどれにあてはまりますか。」の回答で咀嚼状態を評価し、自覚的な咀嚼状態と全身状態との関連、および要介護状態への移行や総死亡との関連を明らかにすることを目的としました。解析対象は75,699人 で、咀嚼不良が男性、低体重、喫煙、多量飲酒習慣、歯数の減少と関連することが示されました。また併存疾患がなく介護認定のない 34,129 人を対象に平均15.4カ月追跡した結果、咀嚼不良が総死亡のリスクになることが示されました。咀嚼不良を感じる前に、また歯数が減少する前に、口腔環境を健全に保つよう保健指導や咀嚼回復を行うことが望まれます。
大腿骨近位部骨折のリスク因子の解析
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高齢者では、大腿骨近位部(脚の付け根の部分)を骨折すると寝たきりになる危険性が高く、骨折の予防は元気で長生きするためにとても大切です。とりわけ糖尿病をお持ちの方は、骨折の危険性がさらに高くなると言われています。この研究では、国民健康保険、後期高齢者医療制度に加入されている県民の皆さまのデータを分析させていただき、糖尿病が大腿骨近位部骨折の危険性を高めること、特に1型糖尿病で骨折の危険性が高いことを明らかにすることができました。糖尿病の予防や管理は、糖尿病が原因となる目や腎臓の病気だけでなく、骨折を予防するためにも重要です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が子どもの言語発達に与えた影響の検証
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新型コロナウイルス感染症流行による活動自粛等の制限は、子どもの発達に影響を与えたのではないかと考えられています。そこで、静岡県藤枝市で実施した1歳6か月と3歳の子どもの健診データを使用して、感染症流行前と流行中で言葉の発達に遅れがなかったかを比較しました。その結果、はっきりとした言葉の遅れはなかったことが分かりました。3歳以降の長期的な影響についてははっきりわかっていないため、さらなる研究が必要です。