研究の特色
Features
静岡県の様々なリソースを駆使し、社会健康医学の高度化に寄与する最先端の知見を発信しています。
静岡社会健康医学大学院大学では、国民健康保険に加入している静岡県民220万人8年分の健診、医療・介護レセプトデータを駆使し、医療・予防に関連した20以上のテーマについて研究を進めています。
また、静岡県内で2万人規模の地域住民コホートを立ち上げ、診療科の枠を超えて多彩な臨床情報を収集することで、認知症や高齢化など近未来の我が国が直面する問題に果敢に取り組む疫学研究もスタートしました。これら大学が主体となって実施するプロジェクト研究に加えて、個々の教員の専門性を活かした様々な社会健康医学研究に取り組んでいます。
- コホート研究(田原康玄 教授・栗山長門 教授)
- コホート研究とは、集団を長期間追跡することで、様々な疾患の原因(リスク因子)を明らかにする研究です。これまでは高血圧や肥満などのマクロなリスク因子についての研究が主流でしたが、それらだけでは病因を十分に説明できません。静岡コホートでは、地域住民や職域を対象に2万人の方からご協力いただき、詳細な臨床情報を収集するとともに、最新の分析機器を用いた生体試料の分析やゲノム解析も行うことで、より高い次元で様々な疾患の病因解明に取り組みます。研究成果を社会に還元し、人々の健康づくりに貢献することもコホート研究の重要な役割です。本学を主体に県内の市町と協力して実施する静岡コホートでは、様々な関係者と連携して研究成果に基づいた予防活動を展開し、その成功事例を静岡モデルとして広く発信していきます。
- 医療統計学・医療ビックデータ(中谷英仁 准教授)
- 医療統計学では、ヒトの健康に対する介入や政策の因果効果を評価することを目標にして、母集団データに潜む何らかのルールを紐解いたり、興味ある項目間の関係性を推量する手法を学びます。約20年前の因果推論のブレークスルーを皮切りに、観察研究で因果効果を調べることが可能となり、さらに近年では、医療ビッグデータからランダム化比較試験様のデータを作り解析することで、高いレベルのエビデンスを創出できるようになってきました。本学でも、静岡県国保・後期高齢者保険加入者の医療・介護・健診データを使った医療ビッグデータ研究に取り組んでいます。これまでに、個人レベルでのデータ連結やデータの可視化・クリーニングを適切に行い、縦断型データベースとしての整備を行いました。現在、このデータベースを活用した医療・健康課題に対する様々な研究が進められており、ゲノムコホート研究を含むThe Shizuoka Studyの一環として成果報告される予定です。
- 臨床遺伝・ゲノム医学(臼井健 教授・木下和生 教授)
- 近年のゲノム領域の進歩により、ゲノム医学が身近な日常診療のみならず予防医学や所謂先制医療のツールの主役になりつつあります。ゲノム情報を社会や個人に還元するに当たっては、ゲノム情報の特殊性ゆえに、情報の伝え方に加えて受け手側のリテラシーの向上も重要になってきました。本研究では、健全なゲノム医療が実践されるための基盤整備を遺伝医療の観点より進めたいと考えています。木下研究室の研究対象は AID という DNA に変異を導入する酵素です。この酵素は、抗体遺伝子の情報を書き換える作用があり、免疫の記憶に関わります。アトピーや花粉症の原因となる IgE 抗体を作ります。抗体以外の遺伝子に作用し、がんの原因となることもあります。アレルギーの治療やがんの予防を目標に AID 阻害剤の開発を行っています。また、免疫疾患やがんの遺伝素因についての研究も行います。
- 聴覚言語学(髙木明 教授)
- 耳が聞こえなければ音声言語獲得は困難です。先天性の重度難聴は1500人に一人と高頻度にみられています。これらの難聴の多くは内耳コルチ器(振動を電気に変換)の障害であるため、補聴器(音の増幅)が役に立ちません。しかし、神経細胞は残っているので、直接電気刺激で蝸牛内の聴神経を刺激すれば音を感じることができます(人工内耳)。人工内耳の電気刺激情報は限定的ですが、ヒトは脳内処理によって健聴同様に音声言語を獲得できるようになります。ただし、円滑な音声言語獲得のためには、1歳前後の聴覚の感受期に人工内耳を装用する必要があり、また、その後の聴覚活用を促す介入が大切です。このため、難聴の早期発見、早期介入の体制整備が必須であり、母子への介入者育成、聴覚の専門家などの人材育成が急務です。併せて、聴覚発達の脳科学的研究から、効果的介入法の探索を行います。
- ヘルスコミュニケーション(山本精一郎 教授)
- 皆さんはヘルスコミュニケーションと聞いて、どんな学問を想像しますか?本学では、主に個人に対して、健康増進のための行動変容を促すための有効な手段としてのヘルスコミュニケーションを学びます。禁煙や身体活動、野菜摂取や健診・検診受診など、具体的な例を取り上げ、大学院らしい、参加型の授業を行います。授業を通して、行動科学や行動経済学を利用したヘルスコミュニケーションのパワーに驚くことでしょう。ただ、いかに効果的な方法を開発しても、実際の現場で使えなくては役に立ちません。本分野では、ヘルスコミュニケーションでアプローチできる健康問題に対し、エビデンス-プラクティスギャップを埋めるために、実際の現場(リアルワールド)で利用でき、かつ普及できる効果的な方法を開発するための方法論を身につけることを目的とします。最新の学問であるDissemination & Implementation scienceをぜひ学んでください。
- 医療社会学・死生学(山崎浩司 教授)
- 官民連携型グリーフサポート事業の質的評価研究、死別の困難に支援的なコミュニティを構築するための参加型アクションリサーチ、配偶者死別における遺族間問題に関する研究などに取り組んでいます。死別がもたらす困難であるグリーフに直面する人々は、心身の疾患に罹ったり死亡したりするリスクが高い集団であり、ケアや支援を要するケースが少なくありません。遺族など死別体験者に対するケアや支援を臨床医学/病院医療を枠組みに検討し提供することもできますが、私は専門である社会学・死生学を枠組みに、コミュニティケアやその他のインフォーマルケア(セルフケアや家族ケアなど医療専門職ではない者によるケア)のあり方を検討することを通して支援のあり方を模索しています。研究のアプローチとして、当事者の視点を重視する質的研究法を多用することと、当事者と研究者が対等に協働して研究及び社会変革のための活動をすることを重視しています。