カリキュラム(修士課程)
Curriculum
社会健康医学専門職教育の
国際基準である5領域を中心とした
カリキュラム構成
公衆衛生学科目
現代における保健医療課題の探求や、その解決に向けた科学的思考の礎となる、公衆衛生に関する基礎的な知識を習得するため、公衆衛生専門職教育の国際基準である5領域を学びます。
疫学
社会健康医学に求められる役割を果たすためには、科学的に妥当な方法でデータを収集・分析し、得られた結果を正しく読み解くスキルが必要になります。また、どのような社会医学課題が潜在しているのかを見抜く眼力、その課題解決に必要なエビデンスをどのように導出し、どう介入すべきなのか、仮説を立て検証するための研究を組み立てる能力も欠かすことはできません。このような疫学に関する学識を体系的に学ぶとともに、フィールド調査・研究を含む演習・実習を通じた実践教育から、健康情報や研究の成果を医療や保健、社会福祉の現場に正しく役立てる応用力も養います。
医療統計学
社会健康医学において、統計学は基礎となる学問であり、近年注目されているデータサイエンスの根幹をなすスキルといえます。医療統計学領域の講義では、座学で統計学の基礎を学ぶとともに、データごと、目的ごとに最適な解析法を選択し、得られた結果をどう解釈すれば正しい知見が得られるのか、統計解析の具体的な方法について演習を織り交ぜて実践的に学びます。統計学的に正しい知見を得るための研究デザインやサンプルサイズの設定など、疫学研究・臨床研究の設計方法についても学びます。近年の情報解析技術の進歩によって利活用が進んだ医療ビッグデータの解析・活用方法も含めて学びます。
環境健康科学
自然環境や社会環境など、人間を取り巻く環境が人々の健康に及ぼす影響について系統的に評価する方法を学びます。具体的には、感染症以外の非感染性疾患(non-communicable disease)、特に生活習慣病(糖尿病、肥満、高血圧など)や慢性腎臓病を中心に、生活環境が原因で引き起こされる様々な疾病の発生メカニズムを理解することで、科学的根拠に基づいて疾病リスクを評価し対応する方法を学びます。これからの長寿社会にどのように臨むべきか、修得した学識を基盤に新しい知見を探索し、社会に対して提言や解決策を発信する力を養うことも目指します。
行動医科学・ヘルスコミュニケーション学
適切な健康情報を過不足なく伝え、その理解を促すことで行動変容を惹起する行動医科学・ヘルスコミュニケーション学は、社会健康医学のエビデンスを社会実装するために重要な学識です。行動科学理論に基づいて人間の行動を科学的に理解し、健康増進へと行動変容を促すために、エビデンスに基づいた実効性のある解決策を立案・実行するための知識を学びスキルを身につけます。また、行動変容を促すような施策の立案・実現力の修得も目指します。社会健康医学研究の成果を医療や介護、地域保健等の現場で効果的に還元するためのコミュニケーション技術を身に付けることも目指します。
健康管理・政策学
健診データや診療情報など、医療に関わる様々なデータを駆使した個人・社会レベルでの健康管理の方法論や、データに基づく保健政策の立案について、基本的な考え方を学びます。第一線で活躍されている専門家による講義も併用し、我が国の保険政策を細かく理解するとともに、地域に根ざす医療や保健施策をどのように応用展開すべきか、ともに考える能力を養成します。複雑化する公衆衛生上の課題について科学的に判断し、効果的な提言を立案できる知識や、ヒトを対象とした疫学研究や地域医療データを活用した疫学分析なども、実践的に学ぶことを目標とします。
共通科目
社会健康医学の概要を理解し、専門職として求められる社会的役割を理解するとともに、社会健康医学を学ぶ上で必要となる基礎知識の修得、文献検索法やプレゼンテーションの技術など基本的なスキルの体得を目指します。
ゲノム医学科目
様々な疾患の発症や増悪、薬剤応答性には環境因子とともに遺伝因子が影響しています。遺伝因子とはヒトゲノムの配列の違いであり、ヒトの多様性を生む要因であることから、様々な人種を対象とする社会健康医学において、遺伝因子と疾患との関わりを理解することは欠かすことができません。また、最近のゲノム解析技術の進歩によって、従来の臨床技術では診断できなかった患者の疾患や病態が明らかになったり、ゲノム情報に基づいて治療法や治療薬を選択できるようになってきました。ゲノムを医療に応用する上で欠かせない最新のゲノム医学について体系的に学びます。
発展科目
社会健康医学を修める上で、共通科目、公衆衛生学科目、ゲノム医学科目に加えて学ぶべき科目を配置しています。社会の高齢化にともない重要性が増しつつある高齢者ケアやリハビリテーション、身体的健康とともに重要な精神的健康を保つためのメンタルケアや死生学等の理論、研究手法、社会実装について集約的に学びます。
特別研究
特別研究は、修士課程での学びの集大成です。研究テーマに応じて「課題研究」または「修士論文」を作成し、約1年半をかけてそれらを仕上げるとともに、最終試問に合格することでMPHの学位を得ることができます。特別研究では、研究テーマの設定、先行研究の把握・吟味と体系的な理解、研究データや試料の収集、正しい統計手法を用いた分析、適切な結果の解釈、成果の取りまとめとプレゼンテーションなど、修士課程で学んだ全ての知識と技術をいかんなく発揮しなければなりません。特別研究に取り組むことが、修士課程での学びを深めることにも繋がります。
社会健康医学の研究では、学術的に真理を探究することに加えて研究成果を社会に実装することも求められます。本学には様々な領域・分野において最先端の社会健康医学研究に取り組む教員が多数在籍しています。本学の教員の指導を受け、また学友と切磋琢磨しながら疾病予防における新しい科学的エビデンスを導き、社会に実装することで健康増進に資する研究に取り組んで下さい。
聴覚・言語コース
先天性重度難聴であっても、適切な治療、介入で音声言語獲得が容易な時代となっています。音声言語獲得の有無はその後の学習、社会生活の質に大きな影響を及ぼします。また、加齢性難聴の放置は高齢社会においては社会的孤立、認知症発症の最大の危険因子となります。本コースでは、聴覚、語音認知、言語発達、発話という高次脳機能に関する知識を深め、乳幼児難聴のスムーズな音声言語獲得をめざす介入法や加齢性難聴のケアのあり方などを学びます。
遺伝カウンセラー養成コース
近年のDNA解析技術の革新的な進歩により、ヒトゲノムの情報は、特にがんや希少疾患において、診断や治療方針の決定に応用されています。本コースでは、患者・家族やその血縁者に対してヒトゲノム情報を開示し、疾患との関連について説明するとともに、様々な不安や悩みにこたえることで治療に関する意思決定を支援する役割を担う専門人材を養成します。本コースでは火曜日から土曜日まで原則通学して日中の講義や実習に参加していただきます。